共同購入クーポンサイトは今どうなったのか。
2016/12/22
2010年に彗星のように日本市場に登場してお茶の間の話題を独占した「共同購入クーポンサイト(フラッシュマーケティング)」は、今どうなったのか。
すでに6年も前のことであり、中高生世代ではもう「それ知らない」というくらいひと昔のこと。
共同購入クーポンとは何か
簡単に言えば、「グルーポン(GROUPON)」であり、共同購入クーポンのブームの火付けをしたサイト。(その後に火消しもしてしまう)
日本市場における共同購入クーポンサイトは、グルーポンが最初ではなく、2010年4月にサービスを開始した「Piku(ピク)」で、続いて「Qpod(クーポッド)」、こういう匂いに敏感なリクルートも「ポンパレード(後に『ポンパレ』と改称)」と4カ月で13サイト、2010年年末時点では100サイト、ピーク時には大小零細合わせて230サイトを超えるというにぎわいっぷりだった。
米グルーポン社は、日本市場における参入を迅速に行うため、すでにローンチしていた「Qpod」を買収し、「GROUPON」としてリニューアル、日本市場参入を果たす。
共同購入クーポン 初期ローンチサイト
日本で初めての共同購入クーポンサイト「Piku」から、「ポンパレード(現在のポンパレ)」までの4か月間にローンチしたサイトをまとめました。現在も営業しているサイトはGROUPONとポンパレのみ、一部のサイトは共同購入クーポンまとめサイトに業態変換している。
2010年4月20日 Piku(ピク)
2010年5月10日 KAUPON(カウポン)
2010年6月17日 QPON(キューポン)
2010年6月18日 ミナワリ
2010年6月24日 みんクー
2010年6月23日 GOTI(ゴーチ)
2010年6月28日 Qpod(クーポッド)、後にGROUPONに買収
2010年6月28日 PREPON(プレポン)
2010年7月1日 Group MALL(グループモール)
2010年7月7日 GRPI(グルピ)
2010年7月9日 Gravy(グラビー)
2010年7月14日 TOKUPO(トクポ)
2010年7月21日 ポンパレード、後にポンパレに改名
共同購入クーポンのビジネスモデル (当初)
共同購入クーポンのビジネスモデルは、「販売期間を短く設定する」「販売数量を限定する」「衝撃的な値引き率(主に50%以上の値引き)」「一定以上の購入者数が集まったら販売決定(主に『販売成立』と称する)」であり、瞬発的、突発的に販売を行うことで、ごく一部のユーザーに情報の先取り感が生まれ、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアへの口コミによる伝播が発生する。このことから、「フラッシュマーケティング」とも呼ばれる。
飲食店やエステサロンなどの実店舗において50%以上の値引き販売を行う場合、例えば10,000円のコース料理が5,000円で販売され、うち、共同購入クーポンサイトへの販売手数料が1,000円~2,500円(手数料率が定価の10%~50%)差し引かれ、実店舗への収益は2,500円(定価の約25%)程度だった。それでも、一度に多数の集客ができ、かつリピート客を増加させるチャンスがあることから、広告費や人件費を除いた原価計算上は損益プラマイゼロラインに設定してクーポンを販売する店舗は多かった。
ただ、それには大きな弊害も発生し、すでに一定の常連客があった店舗では、安値につられてきた質の悪い一見客で店舗が混雑してしまい、常連客が店に入れず、適度な客数で落ち着いた空間だった店舗が殺伐として一見客への対応も荒くなり、一見客も常連客も離れてしまうという悲劇も多く聞かれた。
また、経営が傾いていた店舗が最後の起死回生の一発としてクーポンを販売し、クーポン客をさばき切る前に力尽き、閉店してしまうというケースもあった。この場合、クーポン購入者の泣き寝入りとはならず、クーポンサイトから未使用クーポンの払い戻しを受けて救済された。
共同購入クーポンのターニングポイント
TVやメディアで連日報道され、新しいビジネスモデルとして期待された共同購入クーポンだが、転機は意外にも早く訪れる。
日本市場における共同購入クーポンが始まった2010年4月から8か月後の2010年末、グルーポンが販売したおせち料理(提供元は「バードカフェ(株式会社外食文化研究所)」)が当初100セット販売のところ、大幅に上回る500セットを販売してしまう。12月31日になってもおせち料理が届かない、イメージ写真と比べて圧倒的に量がすくない(ほぼ残飯に見える)、料理から異臭がする、などの苦情が相次いだ。原因は、過剰な受注により仕入れが追いつかず、またこの数量のおせちを生産する設備や人材をそもそも持ち合わせていなかったことが悲劇を招いた。
インターネット上では、到着したおせちの衝撃的な画像が出回り、年末から年始にかけて大騒ぎとなる。以降、おせちといえば「グルーポンのスカスカおせち」と揶揄されることになり、グルーポン型ビジネスがグルーポンのみならず業界全体に暗い影を落とす。TVやメディアは、好意的だったスタンスから一転、危険性や問題性を取り上げ、燃え上がったブームは急速に鎮火していく。
グルーポンは以後数年間、おせちの販売を行わなかったが、2013年末には販売ではなくプレゼント企画として「夢のおせちプレゼントキャンペーン」を実施したがあまり話題にならず、2014年末からは販売を再開したがほとんど話題にならなかった。イメージ回復のため相当の努力と準備を行っているにも関わらず、不祥事以外は面白くないというひねくれた世論に黙殺された。
一方、皮肉にもこのおせち事件以後、「通販型おせち」という商品が存在することが世に知られるようになり、日本全国の料亭や百貨店、有名ホテルなどのお取り寄せおせちが広まっていくことになる。
共同購入クーポンサイトの現在
ピーク時に230サイトを超えた共同購入クーポンサイトだが、2017年7月現在その数は激減している。
共同購入クーポン市場はGROUPON、ポンパレの2大サイトを筆頭に、LUXA、楽天クーポン(旧:シェアリー)、くまポン、PONiTS、べネポンと、稼働サイト数は7サイトになっている。
ビジネスモデルも変化しており、「販売期間を短く設定する」は「販売期間は1週間から都度延長、最長で通年」に、「販売数量を限定する」は「売れるようなら販売数は追加増量」に、「衝撃的な値引き率(主に50%以上の値引き)」は「定価を明示しないため、値引き率自体が存在しない。価格は良く調べればよそでも買える水準の安値」に、「一定以上の購入者数が集まったら販売決定(主に『販売成立』と称する)」は「1人でも購入者がいれば販売成立に」と、もはや共同購入とは何だったのかと思う、普通の通販サイトのような状態になっている。
期待される口コミも、2010年末のおせち事件以降は1年に1度、年末に「おせちと言えば、グルーポンのおせち」という極めて不名誉な話題だけとなる。
では、共同購入クーポン市場は縮小したのか
230サイトから7サイトまで減らした共同購入クーポンサイトだが、市場自体はどうやら横ばいを続けているようだ。
クーポンまとめサイト「クーポンジェイピー」の市場レポート、「共同購入クーポン市場動向(2013年2月)」では、2013年2月当時、市場規模は月商33億2,447万円だった。
数々の零細サイトが消え、シェアリーは楽天に買収され、LUXAはKDDIと提携し、ポンパレは通販型モール「ポンパレモール」をサイトに加えて、共同購入サイト愛用者がGROUPONとポンパレの大手2サイトに集約されたことで、その後も市場の販売規模は月商30億~40億程度を叩き出している模様だ。(販売数量やクーポン数などからの推計として)
共同購入クーポンサイトとどう付き合ったらいいか
では現在の共同購入クーポンサイトとどう付き合ったらいいのか。前提としておかなければいけないのは、「かならずしも最安値ではない」「すぐに商品が到着するわけではない」「いつでもそのお店を利用できるわけではない」の3点で、簡潔に言えば「使いにくい通販サイト」「使いにくい実店舗」であること。
共同購入クーポンサイトに欲しいクーポン、商品が必ずしもあるわけではない、すなわち、欲しいものがあるなら必ず買えるAmazonや楽天に行けばいい。
それでも先に述べたように「愛用者」がいるのはなぜか。
それは、「毎日12時に出てくるクーポンをウィンドウショッピング的に閲覧する楽しみ」「その中から欲しいと思う通販型商品があるかもしれないという楽しみ」「近くの実店舗で使える飲食やエステのクーポンがあるかもしれないという楽しみ」「もしかしたら適正な安値である商品があるかもしれないという楽しみ」であろうと思う。
いい風に言えば、百貨店をぶらぶら散歩する気分。ひねくれた風に言えば、買う気もないのにドン・キホーテでたたき売り商品を何となく買う気分。そんなところだろうか。
少なくとも、ブーム最盛期のように、数分で完売し、サイトがダウンするような「私にも買わせて!」といった狂気の世界ではもうない。
ゆっくり吟味して、本当に欲しければ買う、ということができる、ゆったりした時間が流れている世界になっている。
すでに共同購入クーポンというビジネスモデルは事実上消滅していると言えるが、現在の状態はそれを悲観するような状況ではないようだ。
欲しいものがあるかな、と時々のぞいてみることをお勧めしたい。多分、買おうかどうか迷う商品がある。そんな時間も楽しい。